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ミン・ジン・リー『パチンコ』

 

ミン・ジン・リー『パチンコ』池田真紀子訳、文藝春秋、2020
(Pachinko by Min Jin Lee, 2017)

 

「相手は偉大な王国だ。あんなちっぽけな国には乗っ取れっこないさ。中国は俺たちの兄貴だぜ。日本はただの鼻つまみ者だ」

 

朝鮮(韓国と北朝鮮に分かれる前)の日本と中国への見方ってこんなかんじなのかな。

 

日本は、こちらがどんなに愛しても自分を愛してくれない継母に似ていた。

 

在日コリアンの人たちにとっての日本。

 

在日コリアンはみな、意識の上ではある意味すでに祖国を永久に失ってしまっている。

 

「あなたがコリアンだってこと、わたしは少しも恥ずかしいと思っていないわ。(. . . )あなたみたいなすてきなコリアンに会えるなんて、うちの家族は運がいいわよね。それがきっかけで考えが変わるかもーー」

誰もが嫌うような相手とあえて交際する自分は特別な人間だと、この先もいまのまま信じ続けるのだろう。

誰といるときでも、コリアンだとか日本人だとか、そんなことは考えたことがなかった。

 

「自分は差別なんてしない」という人の差別意識かぁ。

 

日本人がコリアンを人として価値の低い、不潔で危険で屈辱的な仕事しかできない民族と見ていることを知っていたからだ。

そしてノアは、自分と同じ努力をしない人々はあまり頭がよくないと思っている。ノアには理解できないだろう。彼女の息子には、努力をあきらめるしかなかった人々を思いやる気持ちがないのだ。

 

こういう人たくさんいるよな…。

 

どうせこの国は変わらへんのや。俺みたいなコリアンは、この国から出られへんのや。ほかに行くところがあらへんからな。

 

「本気なの? パチンコ屋を経営している朝鮮人と結婚? この期に及んでまだ子どもたちにいやな思いをさせたいの? 三人ともひと思いに殺してしまったほうが早いんじゃないの」

 

アメリカに行きさえすれば、直せないものなどない気がした。しかし日本にいると、困難に終わりはない。しょうがない、しょうがない、しょうがないーーその言葉を何度聞いたことだろう。

 

日本はこれから何一つ変わらない。ガイジン差別がなくなることはないよ。それにね、あたしのソロちゃん、あんたは未来永劫、ガイジンのままなの。日本人になることはない。わかる?在日はこの国で生きるしかないんだよ。しかもそれは在日だけに限ったことじゃない。うちのママみたいな人は二度と社会に受け入れてもらえないでしょ。日本人なのにね!

 

悲しくなるなぁ。でも読んでよかった。良い小説。

感想のメモ↓

  • 一番最後、悲しかった。ノアがイサクの墓参りに毎月来てたということ。毎月2日は出張と言ってたのはそういうことだったのか。ソンジャが、ふとしたときにノアの小さい手の感触を思い出すとか、泣いてしまう。
  • ソンジャ、歳をとってからの容姿がボロボロな描写なのが、苦労をたくさんしてきたことが現れてて、切ない。
  • ノア、日本人になりたいって考えていたのが悲しいよ。なんで悲しいのか言語化できないなぁ。優秀なコリアンの若者が、日本人になりたいと強く思わせてしまう社会がなぁ…。
  • 花の最後のセリフ、一番刺さったかもしれない。「日本はこれから何一つ変わらない」のところ。花が病気をうつされたという貿易会社の社長ってハンスかな。日本人って言ってるし、最後の墓参りのシーンで「ハンスが生きてる」って書いてあったから違うかな。
  • ハンス生きてるのか〜。ハンスがキモ過ぎる小説だった。キモすぎてキモすぎてつらかった。ハンスはグチャグチャに酷い殺され方されてほしかった。
  • 去年あらすじ読んだからストーリーは知ってたけど、実際に読むと全然違うな…。
  • キョンヒは結局チャンホと結婚できなかったんだ。チャンホは北朝鮮に行って行方不明のままなのか…。そういう人実際に多かったのかな。
  • 1970年ごろ?在日コリアンの間で大韓民国よりも北朝鮮が人気だったというのが意外。「韓国は最貧国だし…」というセリフがあって、そうだったのか?
  • ハンスの子ノアでなく、イサクの子モーザスが、ハンス(善良 ver.)のような存在になっていくのがおもしろい。というか、ノアとモーザスがいろんな点で交錯してるんだな。幼少期、ノアはイサクに、モーザスはハンスに憧れてたし。「モーセは大人になってから、自分がエジプト人ではなくヘブライ人だと知った」という聖書の話がどっかで出てきた。でも実際自分の生まれが思ってきたことと異なってたのはモーザスじゃなくてノアだった。
  • ヨセプはイエスの父ヨセフから来てるのかな。神の子、他人の子を育てた父にちなんだのか。ヨセプはノアとモーザスの父代わりだったから。
  • ヤンジン、最初は15歳だったのに口の悪いおばあちゃんになってしまって悲しいが、リアル。長年溜めてきた不満とか、文句とか、老人になって出てきてしまうことって多いんだろうな。
  • 全体的に日本人としてごめんなさいという気持ちになるよね。でも予想していたよりもひどく日本人を描いてなくて、かえって申し訳ない。個々の日本人は優しく描かれてる。
  • 1910年の日韓併合がきっかけで、100年以上も故郷から離れて暮らさないといけない人たちがいるんだなぁ…。ずっと周りの在日コリアンの人たちのことを考えながら読んだよ。創氏改名もひどいよな…。
  • いやあしかしパチンコよかった、、、一大叙事詩だった。そして、どんなに学歴やお金を得ても、どうやっても在日コリアンの一家はパチンコから逃れられない、そんな物語なのね…。
  • 冒頭の影島がすごくきれいで牧歌的。三島由紀夫の『潮騒』みたいな。ハンスにレイプされるので起きてることはきついのだが…。その後、大阪に移ると都会のゴミゴミした雰囲気が際立つ。
  • あと、この物語の中では爪の間の汚れが在日コリアンの象徴なんだなあ。
  • 訳者の方すごくお上手では…?? 英語版も買ってるので、原文と照らし合わせて訳の参考にしたい。