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なんでもメモする場所

林真理子『食べるたびに、哀しくって…』

林真理子『食べるたびに、哀しくって…』
角川書店、1987

 

次の日の朝食のテーブルにのる、その黒く盛り上がったトンカツは、ちょうど父親のエゴイズムの象徴のように私には思われた。自分だけが楽しければ、自分が好きなようにその日暮らせればそれでいいと、父はいつも考えているに違いない。

 

私や父のように、最初から何もできないと言い張ると、まわりの人々はどれどれと手を貸してくれる。期待もしないでくれる。

 

S子というのは、学校一の美女とうたわれる女の子で、長い髪のなよなよとした様子は、それだけで人目をひいた。

 

いま、私とこうしてクリームアンミツにはしゃいでいるが、彼女は私の知らない世界を持っている――。そう思うことはキリキリと胸が痛むほどの妬ましさだった。

 

パンを咀嚼するという行為には、戦闘的な部分がかなりあると思う。特にフランスパンがそうだ。

 

けれども安普請で壁がひどく薄い。隣の部屋で女が電話をかけている声までよく聞こえる。それはまるで私の自堕落さをなじるようにも聞こえるのだ。 

 

 

いくら、好きなものを好きにとれるビュッフェといっても、食べ物には尊厳というものがあると思う。キャビアにはキャビアのプライドが存在していて、やはりそばにぶっかけるのはかわいそうだ。私がキャビアだったら憤死してしまうだろう。