甘糟りり子『産む、産まない、産めない』
自由でいたいなら、同じ分だけ孤独を引き受けなければならない。
百合香のプライベートに強い興味があったわけではないが、儀礼的にプロポーズの言葉をたずね、嫌味にならない程度にうらやましいふりをした。
わかる。
途方もない性欲は、動物としての残り時間はあとわずかだと、突きつけられている証しのような気がした。
「もう、すっきりあきらめちゃいたいって気持ちもないことはないんです。ただ、そのきっかけがなくて……。私の身体にも主人の身体にも、決定的な原因があるわけでもないし。自分を納得させようにも、理由がなくって」
わかる。
ちょうど二ヶ月後の十一日は早百合の誕生日だ。三十二歳になる、同じ数字の日にちに生まれたという事実に、運命を感じてしまった自分は単純過ぎるだろうか。
妊娠したら産めばいいし、機会がなかったとしても後悔する必要もない。ないものばかりを捜す毎日はつまらないし、手にしたらきっと他のものが欲しくなる。
この言葉に出会えただけでも読んで良かったかな。
望んでいなかった桜子がほとんど偶然のように妊娠して、あんなにエネルギーも時間も金も使った自分にどうしてできなかったのだろうか。
ある日突然っていつ? 私は、そのある日をどれぐらい待ち続けたと思ってるの。これだけやって来ないんだから、そんな日は、永遠に来ないのよ。
女の人は、結局のところ、産むか産まないか、それとも産めないかの三つに当てはまるしかないのだ、と。
感想