張愛玲『傾城の恋/封鎖』
傾城の恋/封鎖(張愛玲、藤井省三訳、光文社、2018)
さすがは上海人
誰もが上海人は悪だと言うが、悪でも程合いをわきまえている。上海人はお世辞が上手、権力には迎合する、火事場どろぼうもやりかねないが、彼らには処世の芸術があり、演じるに演じるにやり過ぎることはない。
傾城の恋
白公館にはこのような神仙が住む場所があり、ここでぼんやり一日を過ごすと、世間では千年が過ぎているのだ。
「神仙が住む場所」という表現いいな。
子供が次々と生み落とされ、新しかった輝く瞳、新しかった赤い唇、新しかった知恵、それが年々磨滅して、瞳は鈍くなり、人も鈍くなると、次の世代が生み落とされるのだ。
彼女のような華奢な身体は最も老いを隠すのだーー永遠に細い腰に、子供を思わせる蕾のような乳房。
女性とは、どんなに素敵でも、異性の愛を得られなくては、同性の敬意も得られぬものなのだ。女性にはそんな卑しさがあるのだ。
学生時代を思い出す言葉。
彼らは星々が月に群がるように、ひとりの女性を囲んでいた。
きれいな表現。
封鎖
彼女はただ彼の命の一部分が欲しかった、誰も見向きもしない一部分が。
金枝、金蝉という姉妹の名前がかわいい。
蘇雷珈、艾芙林、炎桜という名前も。
あとがきのおもしろかった箇所。
兄弟が古書の相続を裁判で争うというのは、いかにも伝統中国文人の家で庄司そうなことであり、宋版ともなれば希少価値の高い研究資料であるだけでなく、芸術的骨董価値も高く、物によっては国宝ともなるのである。
中国大陸の近代知識人は先端意識と中心意識に凝り固まっており、「香港のような周縁地区に興味を寄せる」ことはなく、日本占領下の上海で香港の物語を書いた張愛玲も異国情趣の文学であり...