アニー・エルノー『嫉妬/事件』
嫉妬/事件(アニー・エルノー、堀茂樹・菊地よしみ訳、早川書房、2022)
嫉妬(L'Occupation)
その瞬間、そのもうひとりの女性の存在が私の中に侵入した。それからというもの、私は彼女をとおしてしか、ものを思うことができなくなってしまった。
同時に、彼女がそこにいるという途切れることのないその状態こそが、私がそれまで以上に張りをもって生きることになる要因だったともいえる。彼女のおかげで、私は熱に浮かされたかのような活動状態に常時保たれた。
なんとしてでも彼女の姓名を、年齢を、職業を、知る必要があった。
私がそう信じたように私が彼にとって唯一の存在だったからではなく、ひとりの熟年の女であり、(. . . )私は自分がひとつの規格のシリーズに属し、その限りにおいて取り替えのきく存在であることを確認させられたのだった。
彼女はといえば、六ヶ月間、日々お化粧をしたり、講義の授業にいそしんだりしていて、自分が他の場所でも、つまり別の女の頭と体の中でも生きているなどとは思いもよらずにいたことだろう。
事件(L'Événement)
中絶は悪だから禁じられているのか、禁じられているから悪なのか、決定することはできないのだ。世間の人は法律に従って判断するのであって、法律を判断するのではない。