ミシェル・ザウナー『Hマートで泣きながら』
Hマートで泣きながら(Michelle Zauner, 雨海弘美訳、集英社、2022)
わたしが顔をしかめたりにこにこしすぎたりすればおでこを指でこすり、「しわになるんでしょ」と叱った。
Re Jane にも同じ動作があった。
生まれながらにしてハーブやリバーといった名前を持つ男たち、フォレストやオーロラと名付けられた女たちだ。
「あんた中国人?」
「ううん」
「じゃあ日本人?」
わたしは頭を振った。
「へぇ。じゃあ、あんたなんなの?」
アジアはふたつの国だけでできているんじゃないよと教えてあげたかったけれど、当惑のあまり口がきけなかった。
「ピザで大喜びするなんて信じられない。グレイスのオンマが手を抜いただけなのに」と、帰りの車で母は憤った。お母さんたちは、みな子供の名前を名乗った。ジヨンのお母さんはジヨンのオンマだった。エスターのお母さんはエスターのオンマだった。結局わたしはお母さんたちの名前をひとつも教わらなかった。お母さんたちのアイデンティティーは、子供に飲み込まれた。
日本と同じだ。
母というかすがいを失えば、父とわたしの心は離れていくだろう。
父娘関係がなんか私と似てる気がする。
韓国では「4」の発音が「死」を意味する漢字を連想させて不吉だというので、建物に四階がない。
韓国でも日本と同じだ。
チキンポットパイをいちからこしらえた。バターがたっぷり入ったパイ生地をこねて伸ばして型に入れ、濃厚なチキンストックとローストチキンと豆とにんじんを縁までそそいで、パイ生地でふたをしさくさくに焼きあげた。牛肉をマリネしてグリルで焼き、生クリームをふんだんに混ぜたなめらかなマッシュポテトやグラタン・ドフィノワや厚さ一センチのバターとスプーンに大盛りのサワークリームをトッピングしたベイクドポテトを添えた。特大のラザニアには自家製のボロネーズソースとちぎったモッツァレラチーズを、これでもかと載せた。
おいしそう
会社で出世街道を歩むことに専念しようとニューヨークに出てきたのに、夢をあきらめるのはまだ早いとあらゆる兆候が告げていた。
(. . . )アメリカ人なのだから自分にはアーティストとして成功する資格があるとさえ信じていた。その夢を叶えようと奮闘してうまくいかず、八年間も鳴かず飛ばずだったのが、母が死んだとたん魔法のように運が向いたのだ。
ご飯がおいしそうなだけじゃなくてクリエイターとしての苦悩にも共感する。
韓国式の甘いおこわ、ヤクシク(薬食)がおいしそう。
あと韓国も天ぷらあるんだね。日本のとんかつをお弁当に入れていたという描写もあった。